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ビフィズス菌は乳酸菌ではない!?食品の保存から発酵食品づくり、腸内改善まで大活躍の乳酸菌

乳酸菌

突然ですが、「乳酸菌」についてご存知でしょうか?
ヨーグルト、乳酸飲料、糠漬けなどの漬物……、乳酸菌が含まれた食品はスーパーでもよく見かけますし、もちろん知っているという方が大半でしょう。健康に、特におなかに良さそうと乳酸菌を積極的に摂っている方も多いと思います。でも、なぜおなかに良いのか、なぜ漬物などの保存食に含まれているのか、ご存知の方は少ないのではないでしょうか。

今回はそんな乳酸菌について「科学的」に解説します。
とは言っても、もちろん難しいことではなく、科学的に、でも身近に、お伝えしていきます。解説してくれるのは、発酵日和ではおなじみの平松 サリーさん。平松さんは、京都大学農学部で学び、今は食と科学を専門として、著述活動を続けていらっしゃる食・科学ライターです。

平松サリー(科学する料理研究家・ライター)

京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了、平成22年度 京都大学総長賞受賞。京都大学農学部で遺伝学やタンパク質工学、バイオ技術を中心に学ぶ。2011年よりライター、科学する料理研究家として本格的に活動を開始。「科学をわかりやすく楽しく、より身近に」をモットーに、執筆や企画・監修など幅広く手がける。著書に『「おいしい」を科学して、レシピにしました。』(サンマーク出版)、『おもしろい! 料理の科学』(講談社)。

乳酸菌は、ヨーグルトやチーズなどの発酵乳製品の製造や漬物作りの主役として、また、清酒やワイン、味噌、醤油の醸造では縁の下の力持ちとして、様々な食品作りに欠かすことのできない微生物です。今回は乳酸菌がどのような菌で、発酵食品にどのように関わっているのか紹介しましょう。

「乳酸菌」は300種類以上もいる!?

乳酸菌とは特定の微生物を指す名称ではなく、糖類などの炭水化物を発酵し、乳酸を大量に作り出す細菌の総称です。消費した糖分に対して50%以上の割合で乳酸を生成すること、胞子を形成しないこと、桿菌(かんきん。棒状の菌)または球菌(球状の菌)であることなどいくつかの定義があり、300種類以上の細菌が乳酸菌として分類されています。

乳酸菌は増殖するのに多くの栄養素を必要とするため、植物の表面や動物の乳、腸内、発酵食品など、栄養が豊富な環境に生育します。このような環境にはライバルとなる微生物も多く存在しますが、乳酸菌は乳酸を大量に作り出し周囲のpHを下げる(酸性にする)ことによって他の微生物が生育しにくい状態を作り出すことができます。乳酸によるpHの低下は腐敗菌や食中毒菌の生育を防いで食品の保存性を高めるため、私たち人間は、このような乳酸菌の生存戦略を乳製品や野菜などの保存に活用してきました。また、清酒の醸造や味噌、醤油作りでは、発酵の邪魔をする雑菌の繁殖を抑えるために乳酸菌を利用しています。

乳酸菌とひと口に言っても菌の種類ごとに得意、苦手という特徴があるので、食品によって活躍する乳酸菌の種類も異なります。例えば、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)は、牛乳に多く含まれる乳糖から乳酸を作るのが得意で、抗菌効果のあるナイシンという物質やチーズ特有の風味を生み出すため、チーズの製造によく使われています。また、味噌や醤油作りでは、塩分に強いテトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)が活躍します。

ビフィズス菌は乳酸菌か

乳酸菌飲料やヨーグルトのパッケージでは「ビフィズス菌」という名前をしばしば見かけます。ビフィズス菌とはビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属というグループに分類される細菌の通称です。乳酸を大量に生成するという点では乳酸菌とよく似ていますが、酢酸も多く生成するなど性質が違う部分も多く、分類学上は乳酸菌とは異なる種類の菌として扱われています。しかし、乳酸生成量の理論値は50%以上で、乳酸菌飲料やヨーグルトなどにも利用されていることから、実用上は広義の乳酸菌として捉えられています。

ヨーグルト

ヨーグルトで共生する乳酸菌

牛乳など動物の乳に乳酸菌を加えて発酵させると、乳酸によって乳が酸性になり、カゼインというタンパク質が集まって固まります。このようにしてドロドロとした状態になったのがヨーグルトで、チーズ作りではさらにレンネットという酵素を併用して乳を固めます。この他に、ケフィアやクミスといったアルコール発酵乳、サワークリーム、発酵バターなども乳に乳酸菌を加えて作られています(発酵バターについては「今さら聞けない「発酵バター」のこと。普通のバターとの違いは?」で紹介されています)。

伝統的なヨーグルトでは、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus、通称サーモフィルス菌)と、ラクトバチルス・デルブリュッキー亜種ブルガリスク(Lactobacillus delbrueckii subsp. Bulgaricus、通称ブルガリスク菌)という2種類の菌が助け合って増殖し、乳酸を作り出しています。ブルガリスク菌はタンパク質を分解してアミノ酸を作り出す力が強く、サーモフィルス菌が生育するのに必要なアミノ酸を供給します。一方、サーモフィルス菌が作り出すギ酸という酸は、ブルガリスク菌の増殖を助けるはたらきがあります。この2種類の菌は共生関係によって、それぞれが単独で存在するよりもずっと早く増殖するため、短時間で効率的にヨーグルトを作ることができるのです。

乳糖不耐症にヨーグルト

日本を含む東アジアにルーツを持つ人たちの中には、牛乳を一度に多く飲むと腹痛や下痢を起こしてしまう体質の人がいます。これは乳糖不耐症といって、牛乳に含まれる乳糖を分解する力が弱いことが原因です。しかし、ヨーグルトなどの発酵乳製品は乳糖の一部が分解されて乳酸に変わり、さらに、乳酸菌が生成した乳糖分解酵素も含まれているため、乳糖不耐の症状が出にくいと言われています。

野菜の保存にも乳酸菌

冷蔵庫がなかった時代には、野菜の保存にも乳酸菌が活躍しました。京都のすぐきや千枚漬け、長野のすんき、飛騨高山の赤かぶ漬け、海外ではキムチやザワークラウトなど、国内外の伝統的な漬物の多くは、乳酸菌の発酵によって野菜の長期保存を可能にしたものです。これらの発酵漬物は樽や壺などに野菜を隙間なく並べ、テコの原理や重石を使って強く圧迫するなど、空気と接触しにくいよう工夫して漬け込まれますが、これは酸素が苦手な乳酸菌が生育しやすくするためです。

ただし、現代では乳酸菌を利用した発酵漬物の生産量はあまり多くありません。発酵によって保存性を高めることよりもフレッシュさや食べやすさが求められ、調味料や出汁を合わせた液に漬け込んだ浅漬けの方が消費者に好まれるためです。例えば、しば漬けはもともと、刻んだナスと赤しそを塩だけで漬け込み、乳酸発酵による酸味と風味を味わう漬物でした。しかし近年では、ナスや赤しその他にキュウリなどを加えて調味液に漬けた、しば漬け風の酢漬けの方が一般的で、しば漬けといえばこちらを指すことが多くなりました。代わりに伝統的なしば漬けの方は「生しば漬け」「発酵しば漬け」などの名称で販売されています。

一方で、最近注目を集めている発酵漬物があります。それは自家製の糠漬け。プラスチック製の保存容器や冷蔵庫を活用した方法や市販の糠床の普及により、以前よりも手軽に糠漬けに挑戦できるようになりました。

糠漬けに使う糠床は米糠と塩水をよく混ぜ合わせたものに、唐辛子や昆布などを加え、野菜くずを数日間漬けて作られます。米糠は栄養が豊富なので、水を加えると様々な微生物が繁殖し始めますが、野菜くずに付着していた乳酸菌が増殖しpHが下がると、雑菌が死滅して酸に強い様々な乳酸菌と一部の酵母が生育するようになります。

糠床は多種類の微生物が共存していて、それぞれが活発になりすぎたり、逆に弱くなりすぎたりしないよう、微妙なバランスを保つためにこまめにかき混ぜてやる必要があります。糠床作りに乳酸菌は重要なはたらきをしていますが、活発になりすぎると漬物が酸っぱくなってしまいます。乳酸菌は酸素が多いと乳酸を作らなくなるので、かき混ぜることで乳酸の作りすぎを抑えることができます。また、酪酸菌という菌は「無精香」という不快なにおいのもととなる酪酸を作り出しますが、乳酸菌以上に酸素が苦手なので、このにおいを防ぐためにも手入れが欠かせません。温度が低くなると菌の生育も緩やかになるので、こまめに手入れをすることが難しい場合は糠床を冷蔵庫に入れたり、長期間手入れができない場合は冷凍庫で保存したりするとよいでしょう。

発酵漬物と乳酸菌については「発酵と腐敗の違いとは?〜漬物の科学|発酵食品のカガクあれこれ【第2回】」でも詳しく紹介されています。また、糠床の作り方は「日本を代表する発酵食品を生む「ぬか床」の秘めたる力」に紹介されています。

さまざまな漬物

清酒、ワイン、味噌、醤油 醸造の名脇役

乳酸菌は雑菌の繁殖を抑え、酵母がはたらきやすい環境を整えるためにも活躍します。例えば清酒づくりの「酒母(しゅぼ)」という工程では、蒸したお米と麹、仕込み水を混ぜたものを乳酸によって酸性にし、雑菌や野生の酵母が繁殖しにくく、酸性でも生育できる清酒酵母だけが繁殖しやすい環境を整えます。「生酛(きもと)」や「山廃酛(やまはいもと)」と呼ばれる手法では、乳酸菌が増殖しやすい条件を作り出すことで、ロイコノストック ・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)やラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)などの蔵や原料に生育する乳酸菌を利用して乳酸を供給します。純度の高い乳酸が入手しやすくなった現代では、乳酸菌を使わずに乳酸を直接添加する速醸系酒母が一般的ですが、生酛や山廃酛では複数の微生物が関わって複雑な風味が加わり、味に深みが生まれることから、商品の差別化として用いられています。

また、味噌づくりではまず、蒸煮した大豆と麹、食塩を混ぜ合わせ、仕込みを行いますが、ここで生育するのが先述したテトラジェノコッカス・ハロフィルスという塩分に強い乳酸菌です。清酒づくりの酒母同様、乳酸によってpHが下がり雑菌が繁殖しにくく酵母が繁殖しやすい環境が作られます。また、乳酸発酵には、味噌の味や風味をよくしたり、着色を抑えたりする効果もあります。味噌づくりの工程や乳酸菌がどのように味噌づくりに関わっているかについては「手前味噌はなぜ美味しいのか?〜味噌の科学|発酵食品のカガクあれこれ【第5回】」でも詳しく紹介されています。

醤油の場合も、大豆と小麦から作った醤油麹を食塩水と合わせた諸味の中で、テトラジェノコッカス・ハロフィルスによる乳酸発酵が行われています。

ワイン醸造では、アルコール発酵が終わった後、タンクや樽での貯蔵中に起こる「マロラクティック発酵」に乳酸菌が活躍しています。オエノコッカス・オエニ(Oenococcus oeni)などの乳酸菌は、ワインに含まれるリンゴ酸を酸味がより穏やかな乳酸に変化させ、さらに香りの成分を生み出すため、この発酵によってワインの味がまろやかになり風味の複雑さを増すという効果があります。

悪役にもなる乳酸菌

醸造の名脇役とも言える乳酸菌ですが、ときに悪役として食品の品質を悪化させてしまうものもあります。酒造りの過程で不必要な乳酸菌が混入すると、アルコール発酵に使われるはずの糖分が乳酸発酵に使われたり、異臭のもととなる成分を作り出したりして、酒造りが失敗してしまうことがあります。また、味噌の中でも麹の割合が高く食塩濃度の低いものでは、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidolactici)という乳酸菌が異常増殖し、品質の低下に繋がることがあります。

醸造が終わってからも油断はできません。かつての清酒づくりでは、長らく「火落ち」という現象が酒蔵を悩ませてきました。これは瓶詰めされた清酒の中でアルコールに強い乳酸菌「火落菌」が増殖することにより、アルコール濃度の低下や酸味、異臭、白濁などの品質劣化が引き起こされるものです。こうした悪玉菌を殺菌するため、清酒づくりの最終工程では、火入れという低温殺菌を行なっています。

プロバイオティクスとプレバイオティクス

発酵乳製品や漬物、醸造製品以外にも、魚介類と米飯を漬け込んで作る「なれずし」やドライソーセージ、サワーブレッド、後発酵茶など、乳酸菌は幅広い食品に使われています(なれずしについては「なれずし/鮒ずし」で、後発酵茶については「話題沸騰!お茶で腸活 乳酸菌入りのお漬物のような後発酵茶」でそれぞれ紹介されています)。

また、乳酸菌はおいしい発酵食品を作ってくれるだけでなく、私たちの腸内に棲みつき、健康の維持にも役立っています。

ヒトの腸内には数百種類、約100兆個もの細菌が生息しています。このような腸内細菌の集団を「腸内フローラ」といい、私たちの健康や病気に深く関わっていることがわかっています。腸内フローラを構成する細菌は、身体に良いはたらきをする有用菌(善玉菌)と、悪い影響を与える有害菌(悪玉菌)、そのどちらにも属さない菌とに分けられます。健康を維持し病気を予防するためには、有害菌の増殖を抑え、有用菌が活躍できるよう腸内フローラを良いバランスに保つことが重要です。しかし、腸内フローラの構成は食生活やストレス、加齢など様々な要因によって変動します。そこで注目されているのが、プレバイオティクスとプロバイオティクスによる腸内フローラの改善です。

プレバイオティクスは(prebiotics)は「生物(biotics)以前の(pre-)」という意味で「有用菌の増殖を助けたり、逆に有害菌の増殖を抑えたりして、宿主(人間)の健康に良い影響を与える難消化性物質」を指します。難消化性オリゴ糖や食物繊維などが知られ、これらはヒトの消化酵素で消化されないため、そのまま腸へ届いて細菌の生育に用いられます。

一方、プロバイオティクス(probiotics)とは、生物間の「共生関係(probiosis)」に由来する言葉で「腸内フローラのバランスを改善することにより、宿主の健康に良い影響を与える生きた微生物」を指します。乳酸菌には便秘や下痢を改善する整腸作用があり、他にも発がんリスクの低減やアレルギーの低減といった効果が期待されるなど、プロバイオティクスの代表格として知られています。

このように、乳酸菌は食品の保存や醸造のサポート、さらには私たちの健康の維持など、様々なところで活躍しています。もはや私たちの生活とは切っても切れない関係にある乳酸菌。彼らが作り出す乳酸のやわらかな酸味を味わいながら、その活躍に想いを馳せてはいかがでしょうか。

乳酸菌を含む食品
参考文献
  • 川本伸一 編著『光琳選書9 食品と微生物』(光琳)
  • 小泉武夫 編著『発酵食品学』(講談社サイエンティフィク)
  • 東京農業大学応用生物科学部醸造科学科 編著『みんなが知りたいシリーズ12 発酵・醸造の疑問50』(成山堂書店)
  • 中川春紫 著『日本の伝統 発酵の科学 微生物が生み出す「旨さ」の秘密』(講談社)
  • 日本農芸化学会 編著『人に役立つ微生物のはなし』(学会出版センター)
  • 辨野義己「プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌の分類と効能」『モダンメディア』57巻10号, 2011年, 277-287ページ
  • 藤井建夫 編著『食品微生物学の基礎』(講談社サイエンティフィク)
  • 森地敏樹 著『“乳酸菌"って、どんな菌? -その特徴と利用性-』(全国はっ酵乳乳酸菌飲料協会)
  • 横田篤、大西康夫、小川順 編『応用微生物学 第3版』(文英堂出版)

※記載内容は筆者の個人的な見解であり、特定の商品または発酵食品についての効果効用を保証するものではありません。

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