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麹と糀 「こうじ」を表す2つの漢字物語〜奥深きこうじの世界に触れてみる

麹

日本の食文化に欠かせない麹菌

「発酵大国・日本」と呼ばれるほど、日本にはたくさんの発酵食品が存在します。発酵には酵母菌や納豆菌などの微生物が必要となりますが、日本でつくられる多くの発酵食品に「麹菌」が使われています。
「麹菌」とは、加熱した穀物などに繁殖するカビの一種。この「麹菌」を、米・麦・豆などの蒸した穀物に付着させ、発酵に適した温度や湿度などの条件下で培養したものを「こうじ(米こうじ、麦こうじ、豆こうじ、など)」と呼びます。味噌、しょうゆ、みりん、米酢など、和食の味を決める発酵調味料には「麹菌」が使用されています。
「麹菌」は、日本の食文化を支える重要な菌といってもよいでしょう。

「こうじ」のなかでも、米に麹菌を繁殖させた米こうじは、実にさまざまな発酵食品や発酵飲料を生み出します。
日本酒や味噌、みりんをはじめ、「飲む点滴」「飲む美容液」とも呼ばれ人気の甘酒も、米こうじで作られています。
また、麹ブームの火付け役の塩こうじや、昔から日本人の食卓に欠かせない漬物なども、米こうじが生み出しているのです。
まさに、発酵界の“魔法の粒”といっても過言ではないでしょう。

米麹とは? 日本の食文化を支える麹菌が生み出す「発酵の素」

ちなみに、こうじには、乾燥したタイプの乾燥こうじと、生のタイプの生こうじの2種類があるのはご存知でしょうか。
乾燥こうじは、生こうじの水分を飛ばして乾燥させたものです。
生こうじの方が香り豊かで、発酵食品や発酵飲料を作る際、発酵が早く進むといわれています。
しかし、水分が多いので雑菌に弱く、あまり長い期間は保存できないという点も。
保存期間の目安は、冷蔵で1週間、冷凍で3ヶ月ほどです。

生こうじの特徴を存分に活かせる調理としては、甘酒が最適かもしれません。
飲む分だけを作って、すぐに飲めば、豊かな風味を堪能できます。

一方、乾燥こうじは長期間保存が可能です。冷暗所であれば6ヶ月~1年ほどは保存できます。

違いについて詳しくは下記記事をご覧ください。

生麹とは? 乾燥麹・糀・こうじとは違うもの? しっかり知ってしっかり活用 麹菌の力

麹

発酵食品や発酵飲料は、その滋味深い味わいに魅了される人が多く、加えて、健康への効果が期待できるという面でも多くの人を惹きつけています。
発酵する段階でさまざまな栄養素が生まれるので、驚くほどの健康効果を発揮するのです。

たとえば、もとの大豆の時点でも栄養はたっぷり含まれているにも関わらず、発酵によって仕上がった味噌は、血圧を下げる作用や抗酸化作用なども期待できます。
このような、すばらしいパワーを発揮する発酵食品の研究を続けている、東京農業大学の前橋教授は、「発酵食品は、美味しくて健康になれるものだということを世界中の人に伝えたい」と、発酵日和の取材でも熱く語っています。

研究者から見た発酵食品の魅力・すごさとは?科学の目で見た発酵食品【第4回】

「麹」と「糀」 の違いは?

「こうじ」を表す漢字には「麹」と「糀」の2種類があることをご存じでしょうか?

その違いは原材料にあります。
「麹」は中国から伝わった漢字で、現在では米・麦・豆などからつくられる「こうじ」全般を表しています。
それに対して「糀」は、明治時代にできた和製漢字。米からできる「米こうじ」のみを表しています。蒸し米の表面をふわふわの白い菌糸が覆っている様子がまるで花のようであることから、このような漢字がつくられたといわれています。
米こうじができる様子を「米に花」と表現するあたりに、日本ならではの美意識を感じます。また、わざわざ専用の漢字をつくりだしたということからも、いかに「米こうじ」が身近で大切な存在だったかをうかがい知ることができるのではないでしょうか。

日本を代表する「国菌」に!

「こうじ」は古くは奈良時代の書物に登場し、平安〜室町時代には「こうじ」を専門に売る「麹屋」や「麹売り」などが存在したとか。このように古くから、日本人は「こうじ」を利用してたくさんの発酵食品をつくり出してきました。
そして2006年には、多くの伝統的な発酵食品に使用され、豊かな食文化の醸成に大きな貢献をしていることから、日本醸造学会が「麹菌」を「国菌」に認定。まさに日本を代表する菌となりました。

麹

広がる「こうじ」の可能性

また、「こうじ」といえば近年ブームとなった「塩こうじ」が頭に浮かんだ方も多いのではないでしょうか。
「塩こうじ」は「米こうじ」に塩と水を合わせて糖化させた万能調味料。漬ける、あえる、かける、と幅広く使え、食材のうまみを引き出し、しっとりさせるなどの効果が話題となりました。
これらの効果は、「こうじ」に含まれる酵素の働きによるもの。さらに、消化促進や代謝アップが期待できる作用もあることから、美容や健康にもうれしい食品として注目されるようになりました。

今では、たいていのスーパーで販売されているほど、すっかりおなじみの調味料となった塩こうじ。
塩こうじに漬け込んだ肉や魚を焼くと、何ともいえない深みのある甘味を味わうことができますし、塩こうじそのものを自宅で作ることも意外と簡単なので、自分で手作りする方も多いようです。

塩こうじの材料は、米こうじと食塩と水のみ。米こうじは、たいていの場合、スーパーの漬物や豆腐の売り場で販売されています。基本的な作り方は以下の通りです。

【塩こうじの作り方】
① 米こうじと食塩を3対1の割合で混ぜる。
② ①と同量か、やや少なめの水を加える。
③ ②を、常温で1週間から10日間ほど保管し、その間、1日に1回は空気を入れるように混ぜる。

これだけで、とろっと熟成した塩こうじが出来上がります。
1日に1回、大切に育てるように混ぜてオリジナルの塩こうじを作れば、食生活はより楽しくなりそうですね。

塩こうじについて、さらに詳しく知りたい! という方は、以下のページで詳しく解説しているのでぜひご覧ください。

塩麹(しおこうじ)とは?|肉や魚と相性抜群の万能調味料の作り方・レシピ

麹に漬けた魚

先人たちの感覚と経験によって、大切に育まれてきた「こうじ」。時代が進み、その有用性も科学的に解明され、ますます用途の広がりが期待されます。
栄養が豊富という点だけではなく、「こうじ」には美白作用やニキビ防止、アレルギーに対抗する力もあるなど、美容や健康にもたらす効果が期待できることもわかってきているのです。

発酵食品に含まれる「麹」のもたらす美容・健康効果3つ+甘酒のすすめ

他の食品と合体して発酵食品を生み出す「こうじ」の活躍ぶり

前述した通り、「こうじ」とは、蒸した米や麦、大豆などの穀物に麹菌を付着させ、繁殖させた、いわば発酵の「タネ」のようなものです。
「こうじ」の作り方を、「米こうじ」を例に挙げて大まかに解説すると、「蒸し米(穀物)+麹菌=米こうじ」といった具合です。

そして次のステップとして、この「こうじ」を、ベースとなる他の食品(たとえば米や大豆)と混ぜて、菌の活動に適切な状態を保つと、わたしたちが「発酵」と呼んでいる作用がおこなわれます。
つまり、日本酒や味噌、醤油などは、発酵のタネである「こうじ」と他の原材料と組み合わせたことで作り出された発酵食品なのです。

ここまでは、「米こうじ」をメインにご紹介してきました。しかし、ほかにも「麦こうじ」や「醤油こうじ」「豆こうじ」など、魅力ある「こうじ」があります。
たとえば、「麦こうじ」は麦に麹菌を繁殖させたもので、香ばしい芳醇な香りが特徴。
麦こうじの使い方と購入方法については下記ページをご覧ください。

麦麹とは? その楽しみかたと基礎知識・購入方法・製品まとめ

そして、「醤油こうじ」は、和える、混ぜる、かけるなどいろいろな使い方ができる万能調味料。
文字通り、醤油とこうじを合わせたもので、醤油に旨みや甘み、さらに複雑な香りととろみが加わって、いろいろな料理に使えます。
塩こうじより醤油こうじのほうが旨み成分の量が多く、醤油の味や香りが生きているのが特徴です。
醤油こうじの魅力については、下記ページをどうぞ!

醤油麹とは? その味、作り方、使い方&健康効果をカンタンまとめ

醤油麹

さまざまな特色をもつこうじから作られる調味料の代表格といえば、日本料理に欠かせない味噌です。
味噌は、どのこうじを使うかによって仕上がりの味も色も変わるバラエティ豊かな調味料。米こうじからは米味噌、麦こうじからは麦味噌、豆こうじからは豆味噌が出来ます。そのどれもが、生活習慣病のリスク軽減や老化防止の効果を期待できる優れものです。
味噌について詳しくは下記ページをご覧ください。

麹味噌・こうじみそとは?&味噌をもっと楽しむための基礎知識

《「こうじ」による発酵》

日本酒の場合… 米こうじ+蒸し米(穀物)+水+酵母菌+乳酸菌=日本酒

「こうじ+穀物」でできる発酵食品は、本当に多様です。さらに言えば、前述した塩麹(「こうじ+塩」)のように、穀物以外のベースとこうじを合わせた発酵食品も存在します。「こうじ」の活躍ぶり、恐るべしですね。

「こうじ」を気軽に取り入れやすい、酒粕、甘酒、塩麹に注目!

はるか昔から、私たち日本人の食生活を支えている、優れものの「こうじ」。「こうじ」によって生まれる発酵食品は数多く、たとえば調味料の場合は味噌、醤油、みりん、酢など。酒類は日本酒、焼酎、泡盛など。そのほかに、甘酒や塩麹。さらに、魚や肉、野菜などを漬けこむ調理法の麹漬けなどもあります。また、日本酒の仕込み後のもろみを搾った際に「搾りかす」として残る酒粕にも、「こうじ」はたっぷりと含まれています。

酒粕は、日本酒の原料の米と「こうじ」、そして酵母由来の成分である炭水化物やアミノ酸、ビタミンなどの栄養素がぎゅっと濃縮されています。酒粕を使った料理としては、味噌仕立ての鍋に酒粕を溶かして食す「粕汁」や、酒粕で作る“粕床”に肉や魚を漬け込み、それを焼いて食べる「粕漬け焼き」など。これらは風味豊かな味わいが特長です。また、酒粕をお湯で溶かして砂糖を加えると、甘酒が完成します。

甘酒には、酒粕を主原料とする「酒粕甘酒」のほかに、米こうじが原料の「米こうじ甘酒」もあります。後者は、米こうじに水を加え、保温しながらひと晩かけて発酵させたもの。発酵している間に、麹菌で生成される「アミラーゼ」という酵素がデンプンをブドウ糖に分解し、甘さを生み出します。そのため、砂糖を加えなくても天然の甘みを味わえるのです。また、「米こうじ甘酒」の深みのある旨味は、プロテアーゼという酵素が、タンパク質をアミノ酸に分解することで生まれるものです。

麹

「酒粕甘酒」と「米こうじ甘酒」の大きな違いは、アルコール分の有無。名前には「酒」という字が入っていますが、「米こうじ甘酒」にはアルコール分が含まれていません。そのため、妊婦さんや小さなお子さまでもおいしくいただけます。

甘酒がよく飲まれるようになったのは、江戸時代に入ってからと言われています。栄養がたっぷり入っているため、当時の人たちの夏バテ対策として広まりました(※1)。現代では「飲む点滴」や「飲む美容液」と形容されるほど、疲労回復や美容のため愛飲している人も多い甘酒。そのまま飲むだけでなく、料理をする際、砂糖代わりに使う方法もおすすめです。

(※1)農林水産省Webサイト「消費者相談」
https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1712/02.html

最近は、スーパーの飲料コーナーに並んでいることが多いので、甘酒は手軽にとることができます。
発酵日和でおなじみの東京農業大学・前橋健二教授によれば、甘酒は、

  • エネルギーの代謝を助けるビタミンB群や葉酸が含まれており疲労の回復を促す
  • 腸内環境を整える効果があると言われているオリゴ糖が含まれている
  • 血圧を下げる効果があると言われているペプチドも含まれている

などなど、摂取するといいことずくめ。
その飲み方、楽しみ方についての詳しい記事はこちらをご覧ください。

米麹甘酒・糀甘酒の作り方、健康効果を知って、毎日おいしく健やかに

さらに、甘酒は、近頃はスポーツ選手にも好まれているのだとか。
甘酒には吸収の早いブドウ糖が入っていて、すぐにエネルギー源になるので、運動中や運動後の低血糖予防になるというのです。
詳しくは下記ページをご覧ください。

実はアスリートにもスポーツドリンクとして好まれる甘酒

そして、女性たちにとって見逃せないのは、甘酒が「飲む美容液」「飲む点滴」と呼ばれるほど、エネルギー補給や美肌に効果的だという点!
自然の成分だけで作られていて、おいしくて、それでいて「飲むと美しくなれる」なんて、最高にうれしいですよね。

年中飲みたい! 甘酒は甘くておいしい「飲む点滴」

女性

甘酒に魅了されると、毎日飲まないと落ち着かないという人もいるかもしれません。
そんな方には、自分で作ってみることをおすすめします。
用意する材料は、ごはん、水、米こうじのみ。
下記のページでは、雑穀や野菜で作る変わり甘酒もご紹介しています。

意外と簡単に作れますよ!

放ったらかしで簡単 甘酒のつくり方

酵素は、発酵の世界の「縁の下の力持ち」!

甘酒についての説明の際、「アミラーゼ」と「プロテアーゼ」という酵素が、甘酒の甘みと旨味を生み出していることを前述しました。

では、酵素とはいったい何なのでしょう。酵素は、微生物である麹菌のような生き物ではなく、自分自身が命をもっているわけではありません。微生物が関わる発酵の段階で、あくまでも“触媒”として化学反応を促す物質です。つまり、酵素がないと、微生物は生きていくために必要な栄養素を生み出せないのです。酵素は、発酵の世界における縁の下の力持ちなのです!

麹菌はたくさんの酵素を生み出します。これらが、穀類や豆類に含まれるデンプン、タンパク質、脂質を分解すると、旨味や甘味が生まれたり、素材が柔らかくなるのです。塩麹に肉や魚を漬けておくと柔らかくなるのは、食材のタンパク質を「プロテアーゼ」という酵素が分解してくれるからです。

また、麹の酵素によって作られる「オリゴ糖」は、腸内細菌“善玉菌”の大好物で、これをエサに善玉菌は繁殖します。さらに、麹の酵素によって生成されるビタミン類は、疲労回復や肌の代謝に役立つといわれています。

人の腸内を元気にし、疲れや美容の悩みの改善にも役立つ「こうじ」は、健康のためにもぜひ積極的に取り入れたいものです。

参考文献・Webサイト

※記載内容は特定の商品または発酵食品についての効果効能を保証するものではありません。

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