食養研究家 山田奈美さんインタビュー
食仕事で日本の四季を楽しむ! 発酵食カレンダー
山田奈美(食養研究家)
<目次>
味噌は冬に寒仕込みし、野菜の旬に合わせて野菜を漬ける。このように、昔から日本では一年中何かしらの発酵食が保存食として作られてきました。発酵食と共に暮らす楽しさを交えながら、魅力溢れた日本ならではのカレンダーについて、食養研究家の山田奈美さんが解説します。
「発酵食を取り入れると、食生活が自然と和食になっていきます」
発酵食を中心とした食生活をしながら、その魅力について伝え続けている食養研究家の山田奈美さん。本格的な発酵食との関わりは今から20年ほど前、自分が管理していた小さな畑で野菜が採れすぎたことから、ぬか漬けを作るようになったことがきっかけだそうです。
「それから、徐々に味噌や梅干しを自分で作るようになりました。今では1年中を通してほぼ手作りの生活を送っているので、とっても忙しいです!(笑)。
もともと母も祖母も自分で作ることが大好きで、季節に合わせてそれらの作業をするのが自然なことだったんです。最初は彼女たちのように上手くできなかったけど、自分なりに調べたり悩んだりしながら、だんだん手についていきましたね」
発酵食を毎日の食事に取り入れたことで、変化はあったのでしょうか。
「食生活全般が変わりましたね。毎日ぬか漬けを食べたいからご飯とお味噌汁がベースになり、和食中心になりました。そうしながら食生活を見直すことで、身体にもいい変化がありました。私の場合は体温が上がって冷え性が改善され、生理不順や生理痛が和らいだり、風邪もひきにくくなりました。便秘が改善されて肌トラブルも減ったんですよ」
なんと驚くべき発酵食のちから!美味しく食べながら自然と不調から改善されるのは、まさに理想ではないでしょうか。
「やってみたら意外とシンプル。みなさんが思うほど大変ではありません!」
ところで、発酵食を1から自分で作るとなると、難しいと思う方もいるでしょう。実際にはとてもシンプルだと山田さんはおっしゃいます。
「材料も野菜と塩だけでいいとか、ひもといてみるとすごく簡単なんですよ。発酵食教室でも生徒さんに『え?本当にこれだけ』って言われることが多々あります。
一見大変そうな味噌も寒仕込みすればいいので、2月に1度作業すればOK。梅干しやたくわんも仕込みは1年に1度だけ。こうすることで本来の形にしておくより長く楽しめるんですから、昔の人は本当によく考えたなと思いますね」
そこで、1年を通してどの時期にどんな発酵食づくりが向いているか、カレンダーにしていただきました。
発酵カレンダー
1月 | 白菜漬け | 9月 | きのこのしょうゆ漬け |
---|---|---|---|
2月 | 味噌寒仕込み | 10月 | 柿酢 |
みりん(みりん風調味料) | 11月 | 塩辛 | |
3月 | ふき味噌 | 12月 | たくあん漬け |
4月 | ぬか漬け(通年だが、気温25度くらいが向いている) | かぶら寿し(なれ寿司) | |
5月 | 豆板醤 | 千枚漬け | |
柿の葉寿司(なれ寿司) | べったら漬け | ||
6月 | ザワークラウト | キムチ | |
7月 | 本格しば漬け | 通年 | 塩麹 |
8月 | 青唐辛子味噌・三升漬け | みそ漬け | |
なすの辛子こうじ漬け | 酢玉ねぎ | ||
アンチョビ | 酢黒豆 | ||
甘酒(通年だが、夏に向いている) |
季節を楽しむのが大事。まずは作りやすいものからトライ!
発酵食作りに特に大事なのは、食材の旬を逃さないことだそうです。
「一般的に食材の旬、つまり一番採れる時に作るのが一番いいんです。例えば、ふきは4月、そら豆が材料の豆板醤は5月、梅は6月というように。発酵食づくりは季節感を楽しめるのが魅力でもあるので、時期を過ぎてしまったら、わざわざ冷凍のものを買ってきてまでやる必要はないと思いますよ。
ぬか漬けは少し難易度が高いですが、ぬか床は25度くらいの環境が一番発酵しやすいので、初めて作るのならば春と秋がおすすめです。また、米麹で作る甘酒はいつでも始めることができますが、夏バテ時の栄養補給に向いているので、夏に作業するのがいいかもしれませんね」
ここで、初心者でも試しやすいという「白菜漬け」の作り方を教えていただきました。
白菜漬け
- 白菜と昆布、ゆずの皮、生姜、種を取った赤唐辛子、白菜の重さの2.5%量の塩を用意します。
- 白菜の軸に塩を振って厚手のビニール袋にいれ、昆布、ゆずの皮、赤唐辛子をまんべんなく散らします。
- 全部まぜて、袋の中の空気をぎゅっと抜き、白菜の2倍ほどの重しをして2週間くらい置きます。
- ぷくぷくと乳酸発酵して酸味が出てきたらできあがり!
なるほど。山田さんがおっしゃっていたとおり、とってもシンプルですね。
発酵食品は基本的に常温で保存できますが、40度以上で乳酸菌が死んでしまうという特性があります。低温には強いので、冬場に作ったものはそのまま常温保存でOK。発酵が進むと酸味が増すので、その場合は冷蔵庫保存にして発酵速度を抑えるのがいいと、アドバイスをいただきました。
「季節に合わせて旬のものをいろいろ仕込めば、1回仕込むだけで1年を通して添加物なしの美味しさが楽しめるんですよ」とニコニコしながら話す山田さん。美味しいものに囲まれて過ごしている毎日を、心から楽しんでいる様子が印象的でした。
手仕事で日本の四季を感じながら、毎日の食卓を愛する。手作りの発酵食とともに、そんな素敵なライフスタイルが送れたらいいですね。
山田奈美(食養研究家)
食養研究家。「食べごと研究所」 主宰。著書に 『つよい体をつくる離乳食と子どもごはん』(主婦と生活社)、『はじめる、続ける。 ぬか漬けの基本』(グラフィック社) などがある。
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※記載内容は、取材対象者及び筆者の個人的な見解であり、特定の商品または発酵食品についての効果・効用を保証するものではありません。